先進科学研究機構

機構長挨拶

 先進科学研究機構は2019年に東京大学に設置された比較的新しい組織で、先進的な研究領域の新進気鋭の研究者を駒場に結集して先進的研究を加速するとともに、大学院や後期課程(教養学部 3,4年生)の研究・教育だけに加え、前期課程(教養学部 1,2年生)の自然科学教育のさらなる充実をはかることを目的としています。

 ところで、「先進科学研究」という言葉は少し違和感があるかもしれません。大学に所属しているかどうかによらず、研究者は常に人類の知と無知の境界でもがいていて、知の領域を先に拡げようと努めています。そもそも先進でない研究、後進科学はありえないです。科学研究を進める方向は「先」にしかないわけで、そのような当たり前の言葉を冠にする研究機構はやはり不思議に思えます。

 それでは何が特徴なのかというと…「先」の方向が定まっていないことかと思います。研究機構のメンバーは、天文学から数理統計、物理、生命科学、化学など様々な分野の研究者です。いや、この分類自体も古くて適切でなくて、分類しきれない面白い問題に各々が取り組んでいて、結果として共通の方向はどこにもないです。一方で、メンバーは互いの研究分野をリスペクトしていて、時に二つのベクトルが足されて、また別の方向の「先」に向かうこともあります。人類の無知の領域は圧倒的に広くて、どっちを向いても無知なのかもしれず、そこに対峙する集団には、何かしらの科学用語を用いた〇〇研究機構はふさわしくないのです。

 また、何か特定のミッションがあって、そこに向かって異なる分野のメンバーが集結し、課題解決に取り組むこととも違います。進むべき道は「先」にはなくて、進んだ後にできていくものと考えています。常に面白いと思う「先」に向かっているのが先進科学研究機構と言えます。実は、この雰囲気は先進科学研究機構だけでなく、その母体となっている総合文化研究科、そして駒場キャンパス全体に広がっているのではないかと思っていて、この機構にはその象徴として意味があります。

 そして、まだどの分野に進むのか決めかねている前期課程学生にぜひこの雰囲気を感じて欲しいと考えています。先進科学研究機構が中心になっている「アドバンスト理科」は高度な内容を少人数に講義をしたり、研究入門の場を提供しています。いち早く専門性を学ぶことに執着せずに、存分にこの雰囲気を味わって、みなさん自身の「先」を見つけてほしいと願っています。

2022年4月1日
先進科学研究機構 機構長
福島孝治